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農薬が効かない理由は“別種”だった?一本のサトウキビ、三つのそっくり害虫 - サトウキビ害虫の新種発見が変える防除戦略

農薬が効かない理由は“別種”だった?一本のサトウキビ、三つのそっくり害虫 - サトウキビ害虫の新種発見が変える防除戦略

2025年12月04日 08:38

サトウキビ畑を長年静かに蝕んできた小さな昆虫に、新しい「名前」と「顔」が与えられました。


ブラジルの研究チームが、サトウキビの主要害虫として知られてきた「根の泡だらけウンカ(root spittlebug)」の標本を改めて調べたところ、その中に既知の種とは別の**新種の害虫「マハナルバ・ディアカンタ(Mahanarva diakantha)」**が紛れ込んでいたことが判明したのです。Phys.org


この発見は、単なる学術的ニュースにとどまりません。


サトウキビはブラジルの基幹作物であり、砂糖やエタノールとして輸出額は年間90億ドル超とも試算されています。Entomology Today

 その畑で、農薬が効きにくい「正体不明」の害虫が増えていたとしたら——新種の同定は、被害のメカニズムを解き明かし、損失を減らすための重要な一歩になります。



「農薬が効かない」違和感から始まった物語

物語の始まりは2015年。ブラジル南部・南東部のサトウキビ農場から、「いつもの殺虫剤をまいているのに、害虫が減らない」という相談とともに、多数の害虫標本が研究者のもとへ送られてきました。Phys.org


標本の送り先は二つの研究室でした。

  • 昆虫の形態分類(見た目の特徴)に詳しい、PUC-RS(リオグランデ・ド・スル・カトリック大学)のカルヴァーリョ教授のグループ

  • 染色体や遺伝子を専門とする、サンパウロ州立大学(UNESP)カブラル・デ・メロ教授のグループ


両チームは当初、お互いの存在を知りません。
しかし、それぞれ標本を観察するうちに妙な違和感を覚えます。

「形は“いつもの”マハナルバ・フィンブリオラータに似ている。でも一部のオス個体の交尾器(生殖器)の形が少し違う……?」


形態班が抱いたこのモヤモヤを、遺伝子班も別ルートで感じていました。
ミトコンドリアDNAのCOI領域(種の識別に使われるバーコード遺伝子)を解析すると、既知の種とよく似てはいるものの、どうしても説明しきれない差があったのです。Phys.org


その後、学会で両チームが偶然出会い、「それ、同じ標本では?」と気づいたことで、共同研究が一気に加速。ブラジル各地から標本を集め直し、形態・遺伝・そして「羽の形」を組み合わせた総合的な分析が始まりました。Phys.org



肉眼では区別不能、「そっくり三兄弟」の三男坊

今回焦点となったサトウキビの泡だらけウンカは、いずれもマハナルバ属に属する小さな昆虫です。
これまでサトウキビの主な加害種として知られてきたのは:

  • マハナルバ・フィンブリオラータ(M. fimbriolata)

  • マハナルバ・スペクタビリス(M. spectabilis)

の2種でした。新種のディアカンタ(M. diakantha)は、この2種と見た目がほとんど変わらない「そっくり三兄弟」の三男坊と言えます。Phys.org


  • 体の色合いも似ている

  • 生息域もブラジル南部〜南東部で大きく重なる

  • 畑の表面から見える姿だけでは、専門家でも見分けがつかない


そのため、これまで現場では**「全部フィンブリオラータってことにしておこう」**と一括りにされてきた可能性があります。実際、研究チームが博物館や大学の標本コレクションを見直したところ、1961年に採集された個体がフィンブリオラータとしてラベルされていたものの、改めて調べると新種ディアカンタだった、というケースも見つかりました。Phys.org



名前の由来は「二本のトゲ」:見分ける決め手は“オスの先っぽ”

新種には**「マハナルバ・ディアカンタ(Mahanarva diakantha)」**という名前が与えられました。
「diakantha」はギリシャ語由来で「二本のトゲ」を意味し、オスの交尾器の先端が二股に分かれている特徴に由来します。Phys.org


見分けのポイントは主に三つ:

  1. オス生殖器の微妙な形状の違い

    • 新種は先端が分岐しており、既知の2種とは構造が異なる。

  2. COI遺伝子配列の差

    • 数値上の差は小さいものの、系統解析では独立した枝を形成し、別種として扱う妥当性が裏付けられた。Phys.org

  3. 後翅の形の統計解析(幾何学的形態測定)

    • 過去数年で昆虫研究に普及した手法で、翅の輪郭や模様の“形”を数値化して比較する。

    • 3種を並べて解析すると、統計的に有意な差が現れ、9割近い精度で種の判別が可能になったと報告されています。Phys.org


つまりこの新種は、**「遺伝子も形も既知の種とギリギリ似ているのに、総合的に見ると別物」という、いわゆるクリプティック種(暗⾊種)**の代表例です。



なぜ“たかが分類”が、農家の収入に直結するのか

では、なぜ「種が一つ増えた」ことが、サトウキビ農家にとって重要なのでしょうか。

そもそも根の泡だらけウンカ(M. fimbriolata)は、ブラジルのサトウキビで最重要害虫の一つです。


  • 地上部の成虫は葉の汁を吸い、その際に分泌する毒素で葉が黄・赤く焼け焦げたようになり、光合成と糖の蓄積が大きく低下する

  • 地中部の幼虫は、泡状の分泌物に包まれたまま根から養分を吸い、茎を細く、空洞にし、倒伏や枯死を引き起こすkoppert.com.ar

被害は数字で見るとかなり深刻です。


  • 原料品質の低下は最大30%

  • 収量(トン/ヘクタール)の減少は**15〜85%**に達する事例も報告されています。Revista Cultivar

さらに別の報道では、根ウンカ類の被害が1ヘクタールあたり最大36トンのサトウキビ損失につながる可能性があると試算されています。Tridge


ここに「実は別種でした」という要素が加わると、状況はさらに複雑です。

  • 新種ディアカンタは、既存種とは

    • 発生時期

    • 好む環境条件

    • 農薬への感受性
      が微妙に異なる可能性がある。

  • しかしこれまで、フィンブリオラータと一緒くたにカウントされてきたため、

    • 発生予察のデータ

    • 農薬の効果試験

    • 生物農薬や天敵の試験
      が、実は「複数種の平均値」になってしまっていた恐れがあります。Phys.org


「敵の正体を間違えていたら、戦略も狂う」
今回の同定は、まさにその見直しのスタートラインなのです。



過去のデータも標本も、ぜんぶ見直し?

研究チームは、国内の標本コレクションを丁寧に洗い直しました。すると…。

  • 1960年代に採集された個体の中に、ディアカンタが紛れ込んでいる

  • しかしラベルはフィンブリオラータ、あるいは別の近縁種になっている

というケースが複数見つかります。Phys.org


つまりこの新種は、ごく最近になって突然現れた「新顔」ではなく、少なくとも60年以上前からサトウキビ畑にいたのに、ずっと見逃されていた可能性が高いのです。


この事実は、いくつもの問いを投げかけます。

  • これまで報告されてきた被害や防除試験のうち、どこまでが新種の影響だったのか

  • 一部の地域で「同じ農薬が効いたり効かなかったりする」謎は、種の組み合わせの違いで説明できないか

  • 新種ディアカンタは、他の病原菌やウイルスの媒介者になっているのか

実際、近縁のフィンブリオラータは、サトウキビのリーフスカルド病(Xanthomonas albilineans)を媒介するベクターであることが最近の研究で示されており、害虫対策と病害対策が密接に結びつくことが明らかになっています。Entomology Today


ディアカンタがどこまで似た役割を担っているのかは、これからの重要な研究テーマになりそうです。



SNSではどんな反応? 静かな話題だが、農業界の注目は高い

では、一般の人々や専門家は、このニュースをどう受け止めているのでしょうか。


ブラジルの研究助成機関FAPESPは、自らのニュースサイトで今回の発見を紹介し、そのリンクをX(旧Twitter)やFacebookで共有しています。Agência Fapesp

いいねやリポストの数は、バズと呼べるほどではないものの、農業関係者・研究者・学生などの「専門クラスタ」にじわじわ広がっている印象です。TwStalker


実際の投稿やコメントを眺めると、反応は大きく三つに分かれます(要旨レベルで整理すると):

  1. 「分類学すごい」派

    • 「虫の“顔”だけでは判別不能でも、遺伝子と形態を組み合わせれば新種が見えてくる。統合的分類の力を感じる」と、昆虫や進化生物学の研究者が感心する声。

  2. 「現場大丈夫か」派

    • サトウキビ生産者や農業コンサルタントから、「これまでの防除マニュアルは見直し必要?」「農薬登録や閾値(防除開始の基準)は変わるのか」といった、実務面の不安と期待が入り混じったコメント。

  3. 「環境影響を気にする」派

    • 環境NGOやアグロエコロジーに関心のあるユーザーからは、「農薬を増やす方向ではなく、IPM(総合的病害虫管理)や生物的防除をどう組み込むかが鍵だ」といった意見。


Instagramでは、UNESPや研究者個人のアカウントが、新種と既知種の写真・分布図を並べたビジュアルを投稿しており、**「見た目ほぼ一緒なのに別種っておもしろい」「名前の意味がかっこいい(“二本のトゲ”)」**といった、ビジュアル寄りの反応も目立ちます。インスタグラム


総じて、「地味だけど、農業と生物多様性にとってじわっと効いてくるニュース」として、専門コミュニティを中心に静かな盛り上がりを見せている、と言えそうです。



これからのサトウキビ防除はどう変わる?

新種の記載はゴールではなく、ここからがスタートです。
考えられる今後の展開を、いくつか挙げてみます。


1. 種ごとの発生マップとリスク評価

まず必要なのは、**「どこに、どの種が、どれくらいいるのか」**を描き直すことです。

  • 3種が同時に存在する地域

  • ほぼディアカンタだけが優占している地域

  • 逆に既知種がメインの地域

など、地域ごとの「種構成」が見えてくれば、防除戦略を地域適応型に調整することができます。Phys.org


2. 農薬と生物農薬の“相性チェック”

既存の試験データは、「ターゲットが混ざっていた」可能性があります。

  • 代表的な殺虫剤が各種にどの程度効くのか

  • 天敵(寄生蜂や捕食性ハエ、昆虫病原性カビなど)が、どの種にどれくらい効果的かRevista Cultivar

を改めて検証する必要が出てきます。


特に、ブラジルでは昆虫病原性カビ(Metarhizium anisopliaeなど)を使った生物防除で、最大75%程度の個体数抑制が可能とする報告もあり、こうしたエコ寄りの手法との相性は重要なポイントです。Revista Cultivar


3. IPM(総合的病害虫管理)への組み込み

単に「新種だから新しい農薬を」という発想では、環境負荷やコストの問題から行き詰まります。

  • 発生モニタリングの精度向上(種レベルの同定を組み込む)

  • 土壌管理や残渣処理による物理的・耕種的防除

  • 天敵・病原微生物の活用

  • 必要最小限かつローテーションされた化学防除Revista Cultivar

といったIPMの枠組みの中で、「新しい敵」をどう位置づけるかが焦点になります。



小さな虫の“名前”が、持続可能な農業への鍵になる

昆虫の分類学、とりわけ顕微鏡の世界でオスの生殖器の形をひたすら見比べる仕事は、地味でマニアックに見えるかもしれません。


しかし今回のように、

  • 農薬が効かない違和感の理由を突き止め

  • 過去60年以上分のデータの読み方を変え

  • 将来の防除戦略の設計をやり直すきっかけ

を与えることもあります。


気候変動や農地利用の変化で、害虫の分布は世界的に変わりつつあります。
その中で、「どの虫が、どの作物に、どんなふうに悪さをしているのか」を正しく理解することは、化学農薬依存から抜け出し、環境負荷を減らしながら生産性を守るための必須条件です。


サトウキビ畑の小さなウンカに、ようやく与えられた「ディアカンタ」という名前。
この一歩が、ブラジルだけでなく、世界のサトウキビ生産やサステナブル農業の未来を少しだけ明るくするかもしれません。



参考記事

サトウキビの新種の害虫の発見が管理を容易にし、損失を減らす可能性
出典: https://phys.org/news/2025-12-discovery-species-sugarcane-pest-losses.html

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