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害虫には“消化不能”、人間には安全? 遺伝子編集が切りひらく次世代農業

害虫には“消化不能”、人間には安全? 遺伝子編集が切りひらく次世代農業

2025年11月14日 00:32

害虫にはごちそう、人間には主食──「デンプン戦争」の新フェーズ

世界中で栽培されているトウモロコシ、小麦、豆、コーヒー。
これらの穀物にとって、デンプンはエネルギーの貯金箱だ。一方で、ゾウムシやコクゾウムシ、ボロムシ(ワタアブラムシではなくワタの蕾を食べるボーウィーヴィル)など、デンプンが大好物の害虫たちにとっても“食べ放題ビュッフェ”になっている。Phys.org


新たにPhys.orgで紹介された研究は、この「デンプン戦争」に遺伝子編集という武器を持ち込もうとしている。ブラジル農業研究公社(EMBRAPA)と気候変動ゲノミクス研究センター(GCCRC)などの国際チームが、Biotechnology Journalに発表した論文では、植物が本来持っている「デンプンを守る防御システム」を遺伝子編集で強化し、害虫には“まずくて消化できない種子”を作る構想が語られている。Phys.org


見えない盾「αアミラーゼ阻害剤」とは何か

害虫がデンプンを消化するには、「α(アルファ)アミラーゼ」という酵素が必要になる。これはデンプンの鎖を切って糖に変える“ハサミ”のような存在だ。


野生のマメ科植物などの種子には、このハサミの動きを邪魔する「αアミラーゼ阻害タンパク質」が含まれている。これがあると、害虫は種子を食べても十分に栄養を吸収できず、成長や繁殖が妨げられる。つまり、植物は自らのタネに「毒ではないけれど消化しづらいコーティング」をしているようなものだ。Phys.org


ところが、私たちは長い年月をかけて、豆や穀物を「人間にとって消化しやすくおいしい形」に品種改良してきた。その過程で、こうした阻害タンパク質の多くが減ってしまった可能性があると研究チームは指摘する。Phys.org


2000年代から続く地道な探索

今回の総説論文では、この分野で過去20年ほどに蓄積されてきた研究が整理されている。具体的には、

  • αアミラーゼ阻害タンパク質をつくる遺伝子を、さまざまな植物から探索

  • 害虫ごと・動物種ごとに、この阻害剤がどれくらい効くのかを細かく評価

  • 阻害剤をたくさん作るように遺伝子を組み替えたトランスジェニック(GMO)植物の開発

  • それに関連する特許の獲得状況

といったステップだ。Phys.org


中でもターゲットとなってきたのは、長期保存される穀物を食い荒らすマメゾウムシ類やコクゾウムシ類。彼らは鞘(さや)の中で発生し、そのまま倉庫に運ばれた穀物の中で世代交代を繰り返す。気づいたときには、袋の中身は粉だらけ──という悲劇を世界中の農家が経験している。Phys.org


なぜ「古典的GMO」だけではダメなのか

ならば、阻害タンパク質の遺伝子を外から入れたGMOをどんどん作ればいいのでは? と思うところだが、そこには大きな壁がある。

従来のトランスジェニック作物は、他の生物種から持ってきた遺伝子を作物のゲノムに組み込む。科学的には整合性があっても、「他の種の遺伝子が入っている食品」への抵抗感は依然として根強い。加えて、多くの国でGMOは厳しい審査を受ける必要があり、開発費も時間も膨れあがる。Phys.org


ブラジルのバイオセーフティ政策を所管するCTNBio(国家バイオセーフティ技術委員会)は、「他種の遺伝子を導入せず、作物自身の遺伝子を改変しただけのもの」を、条件によってはGMOとして扱わない場合がある。Phys.org


これは企業にとって決定的に重要だ。同じような害虫耐性を得られるなら、規制負担の軽い“非GMO扱い”の遺伝子編集作物の方が投資に踏み切りやすいからだ。


CRISPRで「元々ある防御機構」をブーストする

そこで登場するのがCRISPRと呼ばれる遺伝子編集技術だ。これはDNA上の狙った場所に“分子のハサミ”を入れ、塩基配列を改変する方法で、他種の遺伝子を必ずしも導入する必要はない。

研究チームが描くシナリオはシンプルだ。

  1. 作物のゲノムの中から、αアミラーゼ阻害タンパク質を作る遺伝子、あるいはその調節領域を特定する

  2. CRISPRを用いて、その遺伝子の「スイッチ」を強めたり、タンパク質の活性が上がるようにアミノ酸配列を少し変えたりする

  3. 結果として、害虫の消化酵素に対しては強く効くが、人間や家畜のアミラーゼには影響しない“ピンポイントな阻害剤”が、作物の種子や葉で多く作られるようにする

こうして生まれた作物は、害虫にとっては「食べても太れないご飯」となり、被害が大きく減る一方、人間や家畜にとっては従来通り安全で消化しやすい食品のまま、というわけだ。Phys.org


実際に狙われている害虫たち

総説では、特に以下のような害虫が例として挙げられている。Phys.org

  • マメゾウムシ・コクゾウムシ類(Bruchids):さやの中の豆を食べるほか、貯蔵中の豆を内部から空洞にする貯穀害虫。

  • ワタのボーウィーヴィル(Anthonomus grandis):綿花の蕾の中で産卵し、繊維の品質と収量を大きく下げる。

  • コーヒーベリーボーラー(Hypothenemus hampei):コーヒーの実の中で幼虫が種子を食べる、世界中のコーヒー産地が頭を抱える害虫。


これらはいずれも、デンプンや糖を多く含む種子・蕾・果実を狙う“甘党”の昆虫たちだ。彼らのαアミラーゼに効く阻害タンパク質を増やせれば、農薬に頼らず持続的に被害を抑えられる可能性がある。


「GMO嫌い」な世界でどう受け止められるのか

では、この構想は世間にどう受け取られるのだろうか。
SNS上には、ニュースが紹介されるや否や、さまざまなリアクションが飛び交っている(※以下は議論の傾向をイメージ化したもの)。


1. 環境派・サステナビリティ志向のポジティブな声

X(旧Twitter)では、環境問題やサステナブル農業に関心の高いアカウントから、こんなトーンの投稿が目立つ。

「農薬に頼らずに害虫を抑えられるなら歓迎。人間のアミラーゼには影響しないよう慎重に設計している点も評価したい。」
「気候変動で害虫被害が増えると言われる中、作物側の“自己防衛力”を高めるアプローチは理にかなっている。」

農薬散布は、コストだけでなく周囲の生態系や農作業者の健康負担にもつながる問題だ。そのため、「農薬を減らせるなら遺伝子編集も選択肢としてあり」という現実的エコ視点が一定の支持を集めている。


2. 食の安全に敏感な層からの慎重論

一方で、食の安全や健康情報に敏感なコミュニティでは、次のような不安が繰り返し表明されている。

「αアミラーゼ阻害剤って、人間の消化には本当に影響ないの? 長期的な摂取データは?」
「非GMO扱いにして規制を緩めるのは、企業に有利すぎないか。ラベリングはどうするの?」

過去のGMO論争を経験した人々にとって、「他種の遺伝子を入れていないからOK」「だからGMOではない」というロジックそのものに違和感を覚える人もいる。“ラベルの問題”と“実質的な安全性の問題”を切り分けながら議論する必要があるといえそうだ。


3. 「結局は企業利益?」と斜めから見る意見

特にヨーロッパや日本の一部ユーザーからは、グローバル企業への不信感もにじむ。

「害虫対策というより、特許を握る企業が種子ビジネスを独占したいだけでは?」
「特許で囲い込むより、アフリカや南米の小規模農家が自由に使える技術として開放すべき。」

実際、αアミラーゼ阻害剤関連の特許が多数出願されてきたことは論文中でも言及されている。Phys.org
誰が権利を持ち、誰がアクセスできるのかという“技術の所有”の問題は、本研究でも避けて通れないテーマだ。


4. 農家や農業関係者のリアルな視点

農家本人や農業研究者と思われるアカウントからは、コストとリスクを冷静に天秤にかけるコメントが現れる。

「貯蔵中の豆がダメになるリスクを減らせるなら、農家としてはかなり魅力的。けれど種子価格がどれだけ上がるかがポイント。」
「国ごとの規制や輸出相手国の受容性も重要。輸出用コーヒーや綿花に遺伝子編集品種を使う場合、バイヤーがどう判断するか。」


つまり、技術的に可能でも、貿易やブランド戦略の観点で“使えるかどうか”は別問題という現実的な悩みが浮かび上がる。


「人間には影響しない」はどこまで信じていい?

αアミラーゼは人間や家畜の消化にも不可欠な酵素だ。
研究者たちは、阻害タンパク質の構造を工夫することで、「害虫の酵素には結合するが、人間や家畜の酵素にはほとんど結合しない」という選択性を目指している。Phys.org


しかし、タンパク質の構造と機能の世界はときに予想外だ。
ある害虫種に対して有効だが別の有益な昆虫にも効いてしまう、あるいは腸内細菌叢に思わぬ影響を与える、といった可能性も慎重に検証する必要がある。


SNSでも、

「ミツバチなどのポリネーター(花粉媒介者)への影響は調べられているのか?」

といった質問が目立つ。現時点で論文は主に仕組みと可能性に焦点を当てた総説であり、実際のフィールド試験はこれから本格化していく段階だと見るのが妥当だ。Phys.org


グローバルサウスから見た「食料安全保障」としての遺伝子編集

今回の研究チームの中心に、ブラジルの公的研究機関EMBRAPAがいることも象徴的だ。ブラジルは大豆やトウモロコシ、コーヒーなど、世界の食料を支える農業大国でありながら、気候変動の影響や害虫・病害の拡大にさらされている。


グローバルサウス諸国にとって、**「収量を確保しつつ、農薬依存を減らす技術」**は喫緊の課題だ。輸入農薬価格の高騰や、輸出先市場からの残留農薬規制など、多重のプレッシャーに挟まれているためである。


この文脈で見ると、遺伝子編集によるαアミラーゼ阻害剤の強化は、単なるバイオテックのトレンドではなく、食料安全保障と持続可能な農業の戦略的ピースとして位置付けられる。Phys.org


「ラベル」と「リテラシー」がこれからの鍵

今後、本当にこうした作物が市場に出てくるとしたら、消費者とどのように向き合うべきだろうか。

  • 「他種の遺伝子を入れていない遺伝子編集作物はGMOではない」とラベルから外すのか

  • あるいは、「遺伝子編集」というカテゴリを新設し、GMOとは区別しつつも情報提供を行うのか

  • オンラインで詳細な育種履歴や安全性データを閲覧できる“トレーサビリティ付きラベル”を検討すべきか

SNSを見ていると、「技術そのものへの拒否感」というより、情報が伏せられていたり、企業と規制当局の関係が不透明だったりすることへの不信が大きいように感じられる。


透明性の高いデータ公開や、公的機関による第三者評価の仕組みがなければ、いくら“非GMO扱い”でも、消費者の納得は得られないだろう。


「害虫にとってまずい種子」は未来の当たり前になるか

ゾウムシが豆の中で成長できなくなる世界。
コーヒーの実を食い荒らす小さな甲虫が、種子から十分な栄養を奪えなくなる世界。

それは、生産者にとっては歓迎すべき未来だが、自然界のバランスをどう変えるのか、まだ見えていない部分も多い。

今回の研究は、あくまで**“植物が元々持っていた防御機構を、遺伝子編集で再び前面に押し出そう”というアイデアの整理と、その可能性・課題を描き出した段階**にすぎない。Phys.org


それでも、農薬散布と害虫との終わりなきイタチごっこに悩む現場から見れば、「作物の側を賢くする」という発想は魅力的だ。

最後に、SNS上で印象的だったこんなコメントを紹介したい(意訳)。

「昔の野生種は、すでに自分の身を守る仕組みを持っていた。
私たちがやろうとしているのは、失われたその知恵を取り戻し、慎重にチューニングすること。
問題は“遺伝子編集”という道具そのものではなく、それをどう使い、誰の利益のために設計するかだ。」


「害虫には消化不能、でも人間には安全でおいしい」。
そんな“ご都合主義”な作物を本当に実現できるのか──その答えは、これから始まるフィールド試験と社会的な対話の中で、ゆっくりと形になっていくはずだ。



参考記事

遺伝子編集により、害虫が消化できない植物が作られる
出典: https://phys.org/news/2025-11-gene-indigestible-pests.html

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