メインコンテンツにスキップ
ukiyo journal - 日本と世界をつなぐ新しいニュースメディア ロゴ
  • 記事一覧
  • 🗒️ 新規登録
  • 🔑 ログイン
    • English
    • 中文
    • Español
    • Français
    • 한국어
    • Deutsch
    • ภาษาไทย
    • हिंदी
クッキーの使用について

当サイトでは、サービスの向上とユーザー体験の最適化のためにクッキーを使用しています。 プライバシーポリシー および クッキーポリシー をご確認ください。

クッキー設定

クッキーの使用について詳細な設定を行うことができます。

必須クッキー

サイトの基本機能に必要なクッキーです。これらは無効にできません。

分析クッキー

サイトの使用状況を分析し、サービス向上に役立てるためのクッキーです。

マーケティングクッキー

パーソナライズされた広告を表示するためのクッキーです。

機能クッキー

ユーザー設定や言語選択などの機能を提供するクッキーです。

江口寿史氏の「トレパク疑惑」 - 怒りのコピー&ペースト:炎上を加速させる5つの心理メカニズム

江口寿史氏の「トレパク疑惑」 - 怒りのコピー&ペースト:炎上を加速させる5つの心理メカニズム

2025年10月08日 00:40

1) 序:感情まで「トレース」される時代

画像や構図の“トレパク(トレース盗用)”が問題化する一方で、いまSNSでは感情そのものもトレースされます。被害当事者が吐露した痛みは、数分後には数千の投稿にコピーされ、「私の怒り」へと着替え、次の燃料になります。これは単なる同情の連鎖ではありません。デジタル環境が道徳的怒りの経験と表現、そして報酬構造を作り替えた結果です。Crockettは、デジタル空間が怒り表明のコストを下げ、即時の社会的報酬(いいね、称賛)を高めることで、怒りの表出を促進しうると指摘します。Nature



2) 「道徳的感染」:怒りはどう伝染するか

怒りは伝染します。Twitter/Xの大規模データでは、道徳‐感情語(怒り・嫌悪など)を含む投稿は、1語増えるごとに拡散率が約20%上がると報告されました。研究者はこれをmoral contagion(道徳的感染)と呼びます。PubMed


さらにFacebookの実験は、タイムライン上の感情トーンをわずかに操作するだけで、ユーザーの投稿語彙の感情性が(小さいながら)変化することを示しました。これはデジタル・ネットワークで
感情が大規模に伝播
しうることの実験的証拠です。WIRED



3) 共感のショートカットと「評判の報酬」

人は他者の痛みに接すると、共感だけでなく評判の動機(「私は正義の側にいる」と示したい欲求)でも動きます。オンラインでは善人性や被害者への連帯を可視的に示すことが、自己呈示の利益(承認・帰属)をもたらし、怒りの表明を後押ししやすい。近年の研究は、徳のシグナリングや被害者連帯の表明が社会的な信頼や資源配分に作用し得ることを論じています。scholar.harvard.edu


問題は、こうした「善」の表明が当事者の声を上書きしてしまうときです。怒りの表明が競争化すると、誰がより強く非難したかが評価軸になり、痛みの一次情報が見えなくなります。



4) 集合で過激化するメカニズム:グループ極性化

似た価値観の人びとが集まり議論すると、もとの平均よりより極端な結論へと移動しやすい現象をグループ極性化といいます。Sunsteinは、このメカニズムがインターネット空間での過激化や部族化を説明すると述べています。chicagounbound.uchicago.edu


タイムラインは同質な反応で満たされ、強度の高い非難ほど可視化される。こうして「怒りのトレース」は、単なるコピーではなく上書き増幅(より強い語気・より広い敵の設定)へと変質します。



5) パラソーシャルな当事者化——「私は彼女の友人だ」

芸術家・著名人の発言は、多くのフォロワーにとって擬似的な対人関係(パラソーシャル関係)を喚起します。面識がなくても、長期の受容体験は心理的な親密感・同一化を生み、当事者感覚を増幅します。概念自体はHorton & Wohl(1956)にさかのぼります。PubMed


この当事者化は支えにもなりますが、ときに「代位的怒り」が
本人の感情を奪取
し、本人以上に声を大きくしてしまう副作用を伴います。



6) アルゴリズムがつくる「怒りの気圏」

SNSのランキングは多くの場合、エンゲージメント最適化です。新しい実証研究は、怒りや外集団への敵意を含む投稿がアルゴリズム経由でより選好されやすい傾向を示しました(例:Twitter/Xの推奨タイムラインで怒り含有率が上がるという報告)。ar5iv


この設計と、先述の道徳的感染が噛み合うと、「怒りのトレース」は行動として合理化されます。怒りをなぞるほど、見られ、拡がり、承認されるからです。PubMed



7) 何が失われるのか:二次被害という盲点

怒りのトレースが量的に増えるほど、①本人の語りがノイズに埋没し、②善意の名の下で無断の代理戦争が起き、③反論・反撃も含めた二次・三次のハラスメント連鎖が誘発されがちです。金井さんの最初の言葉が**“素材化”され、本人のコントロールを離れていくとき、それは新たな損耗を生みます。


ここで大切なのは、「正しさ」の有無ではなく、意思の代理化と
感情の所有権**の問題だという認識です。



8) 「怒りをなぞらない」ための実践ガイド

個人にできること

  • 遅延の習慣:事実確認前の共有・断罪を24時間遅らせる。一次投稿が本当に本人の意思か(誤爆、偽アカウント、釣り)を確認。

  • 引用より要約:本人の主張を自分の言葉で要約し、出典を添える——“代弁”ではなく伝達に徹する。

  • 当事者への配慮:DMやメンションでの過度な連絡は負担になりやすい。公開空間での「勝手支援」は控えめに。

  • メタ感情のラベリング:怒りの背後にある不安・無力感を自覚する(「私は怒っているのではなく、不安だ」)。

コミュニティができること

  • モデレーションの行動規範:罵倒語の閾値、個人情報の扱い、二次被害の禁止を明文化。

  • 事実検証のルーチン化:一次情報のリンク、タイムスタンプ、編集履歴をテンプレ化。

  • “被害者中心”の原則:本人が望む支援様式(沈黙の支持/周知/資金/法的支援)を確認してから動く。

プラットフォームができること

  • 過激化の“粘度”を上げる:怒り語彙が一定以上含まれる投稿の即時拡散にクッション(インタースティシャル、再共有前の確認ポップ)。

  • 相互学習的フィードバック:通報結果の可視化、訂正・反省投稿の同等の可視性。

  • 推奨の多様化:エンゲージメント一本足からの脱却(時系列/専門性/関係性など複数レールの併設)。最近の研究知見とも整合的です。ar5iv


9) 結語:コピーではなく、伴走を

「怒りのトレース」は、被害者の声に寄り添うつもりで——しかしときに声を奪うかたちで——拡大します。私たちができるのは、怒りをコピーするのではなく、境界と配慮を持って伴走することです。


デジタルが怒りに与える報酬の構造と、感情の伝染・極性化・当事者化・アルゴリズムの相互作用を理解すれば、炎上は避けられない現象ではなく、設計と実践で減衰可能な現象として扱えます。Nature PubMed



参考にした主要研究(読みやすい順)

  • Molly Crockett, “Moral outrage in the digital age.”(デジタルが怒り表明に与える影響の概説)Nature

  • William J. Brady et al., “Emotion shapes the diffusion of moralized content in social networks.”(道徳‐感情語が拡散を促す)PubMed

  • Adam D. I. Kramer et al., “Experimental evidence of massive-scale emotional contagion through social networks.”(実験的感情伝染)PubMed

  • Cass R. Sunstein, “The Law of Group Polarization.”(意見の過激化メカニズム)chicagounbound.uchicago.edu

  • Donald Horton & R. Richard Wohl, “Mass communication and para-social interaction.”(パラソーシャル関係の古典)PubMed

  • Smitha Milli et al., “Engagement, User Satisfaction, and the Amplification of Divisive Content on Social Media.”(推奨アルゴが怒りを選好し得る)ar5iv

← 記事一覧に戻る

お問い合わせ |  利用規約 |  プライバシーポリシー |  クッキーポリシー |  クッキー設定

© Copyright ukiyo journal - 日本と世界をつなぐ新しいニュースメディア All rights reserved.